第44章 気絶した

桜井昭子は、篠崎司が自分を買いかぶりすぎているとしか思えなかった。自分に一体どれほどの能があって、桐山霖が篠崎家との縁談を破談にしてまで、自分と一緒になるなどということがあるだろうか?

だが、間近で見る篠崎司の眉目、その馴染み深い香りに全身を包まれ、彼女の心は否応なく乱れた。

彼女は顔を背け、篠崎司の視線から逃れる。そっと下唇を噛むその表情に浮かぶ意地っ張りな様子が、ことさらに人を惹きつけた。

篠崎司の瞳の色が翳り、その目元にどこか危険な気配が漂う。「桜井さんの手管は実に見事なものだな。それがお前が男を誘惑する手口か? まったく、男なしではいられない女だ」

その言葉に、途方もないやるせ...

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