第59章 とてもとてもあなたが恋しい

桐山霖は須田哲也の選択を理解していたが、彼が自分の前で、桜井昭子と距離を置くべきだと何度も念を押してくる必要はなかった。

「明日、先に湊市へ戻れ。しばらくここは人手が足りている」

須田哲也はその場で呆然とし、驚愕の色が瞳に満ちた。

以前、桜井昭子の悪口を数言口にしただけで、自社の社長は彼を帰そうとし、入札会にさえ参加させなかった。

今回の口調は、冗談とは思えなかった。

「しかし……」

「もういい!」

桐山霖は彼の言葉を遮り、ずきずきと痛むこめかみを揉んだ。頭がひどく張るように感じられた。

須田哲也は気まずそうに口を閉じ、去り際に桐山霖を何度も窺った。

桜井昭子の話をしただけで...

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