第68章 見えない

彼女はただ篠崎司の手下に過ぎず、ましてやここは篠崎司の縄張りだ。

桜井昭子も瞬時にそれを悟り、目を伏せて力なく笑った。

古川蘭は器具を片付けながら尋ねた。「桜井さん、今後はどうするつもり?」

「死を待つだけ」彼女は水を一口飲み、静かな口調で言った。

死という言葉は、今の彼女にとって、もはや気軽に口にできるものになっていた。

「ゆっくり休んで」

古川蘭は立ち上がり、二人は見つめ合う。すべては無言のうちにあった。

「うん」彼女は小さく応え、古川蘭が去るのを見送った。

部屋を出た途端、須田樹が手を伸ばして彼女を制した。彼は古川蘭の両側の髪をかき分ける。

頬には赤い引っ掻き傷が何本も...

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