第102章

林原裕樹に向けて宝生知優がふっと花がほころぶように笑った、その一瞬――鈴崎潤の口元がすっと沈み、胸の奥に小さな不快が音もなく広がった。

当の本人はまるで気づかない。

裾をつまんで軽やかに戻り、潤の隣へと歩み寄る。

近づいた途端、ずしりとした低気圧が降りてきた。

「どうしたの? 商談、うまくいかなかった?」

知優が見上げると、男は淡く深い視線を返すだけだった。さっきまでの苛立ちはきれいに畳まれていて、残っているのは澄んだ声だけ。

「違う」

潤の視線が、まだ笑みの残る彼女の目尻に落ちる。いかにも興味なさげに。

「ずいぶん楽しそうに笑ってたな」

「面白いことがあったから。そりゃ楽...

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