第105章

「母さんに何か言われたのか?」

ドア脇にぼんやり立ち尽くす彼女を見て、鈴崎潤が訊ねた。

宝生知優は首を横に振る。さっきのやり取りを胸の奥へ押し込み、無理に口元を持ち上げる。

「ううん。ただ……ちゃんと潤のこと、看てあげなさいって」

少し間を置いて、声がふっと落ちた。

「私のほうがダメだったの。あんな怪我してるの見たら……つらくて」

彼はそれを信じたらしい。薄い唇が、かすかに弧を描く。

「じゃあ、償いたいなら――ちゃんと世話して」

「うん」

知優は頷き、まっすぐ返した。

「必要なことがあったら、いつでも呼んで」

警察署で調書を取り終えて外へ出た頃には、夜はすっかり深くなっ...

ログインして続きを読む