第35章

宝生知優が帰宅すると、鈴崎潤はソファに腰掛けていた。手には書類の束。まっすぐ伸びた脚を組み、気怠げな姿勢で目線だけを紙面に落としている。

ドアが開く音がしても、まるで気に留めない。

顔も上げず、視線は手元に釘づけのまま。

無視されたほうはというと、にこにこと近寄ってきて、

「潤くん、ただいま」

唇の隙間から、ほのかな酒の匂いが零れた。

「飲んだのか?」

鈴崎潤が眉を寄せる。

「うんうん」

宝生知優はこくりと頷き、半歩だけ下がった。

「匂う? 潤くん、嫌だった?」

実際は一、二口舐めた程度だ。

「別に」

その答えに、女の目がぱっと明るくなる。

「よかった。……潤くん...

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