第55章

「若奥様、お帰りなさいませ」

宝生知優が玄関の扉を押し開けたとき、外はもう深い夜の色に沈んでいた。

靴を脱ごうと身をかがめた瞬間、にこにこと目尻を下げた小沢と目が合う。

鈴崎家のこの邸宅で暮らし始めてしばらく。使用人たちの顔はだいぶ覚えた。

鈴崎潤は静けさを好む人で、屋敷の人手は多くない。その中でも、小沢はとくに顔を合わせる機会が多い。

知優は口元だけをふっと緩め、礼儀の範囲で微笑み返すと、そのまま螺旋階段を上がり、二階の主寝室へ向かった。

扉を押し開けた、その瞬間。

引き締まった肌が視界に飛び込んでくる。

男がこちらを向いて立っていた。白いシャツは両側にだらりと落ち、くっき...

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