第70章

スマホを置いた途端、頭上から低く落ち着いた声が降ってきた。

『起きた?』

宝生知優は顔を上げる。

鈴崎潤がベッド脇に立っていた。灰色のルームウェア姿で、いつもの堅いスーツとは違い、どこか肩の力が抜けている。

長い指で白磁の椀を持ち、彼女のそばまで来ると、サイドテーブルにそっと置いた。声には珍しく柔らかさが混じる。

『俺が作った味噌汁。少し飲め』

――この人、味噌汁なんて作れるの?

宝生知優は濃い色の汁を一瞥しただけで、表情を崩さない。

『双葉知世は、前からよく飲んでたんだろうね』

棘のある言い方。

鈴崎潤の顎のラインがわずかに強張り、冷えた視線が彼女に落ちる。

『彼女と...

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