第72章

カフェを出た。

宝生知優は、胸の奥に溜まっていた息を深く吐き出す。

そのとき、スマホの画面がまた明るく灯った。軽快な着信音。親友の野原リリから、ビデオ通話の招待だ。

接続すると、映ったのは空港だった。

野原リリはターミナルの大きなガラス窓の前に立ち、背後では旅客がせわしなく行き交っている。彼女はサングラスを外し、赤い唇でぱっと花が咲くように笑った。

『帰ってきたの?』

宝生知優は思わず口元がゆるむ。視線は画面の中の親友に吸い寄せられた。

さっきまで胸を塞いでいた澱が、すっと消える。目の奥まで嬉しさで満ちていく。

ほんの少し会わない間に、リリの洒落っ気はまた一段増していた。カシ...

ログインして続きを読む