第73章

ドアの向こうはしんと静まり返り、返事はない。

宝生知優はそっとドアノブを回し、隙間を作って中を覗いた。主寝室はフロアランプが一つ灯っているだけで、淡い琥珀色の光が鈴崎潤のすっと伸びた輪郭を浮かび上がらせていた。

彼はソファに深く身を沈め、長い指の骨の間に書類を挟んでいる。

温かな光の中でも横顔の線は冷たく硬い。彼女が入ってきた気配を察しても、まぶたすら上げない。ただ喉の奥から、鼻で笑うような気配だけが漏れた。

「潤君」

宝生知優は眉を柔らかく下げ、甘えるように呼ぶ。

男はようやく視線を上げ、淡々と彼女の顔をなぞる。声は薄氷みたいに冷たかった。

「珍しいな」

たった一言に、皮肉...

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