第74章

田村青美がオフィスのドアを押し開けたとき。

宝生知優はデスクに突っ伏したまま、顔面は血の気が引いていた。

『お姉ちゃん、顔色ひどいよ……』

田村青美の声は心配で震えている。今日の夜は取引先との面談があるからこそ、無理をさせてでも出社させた。けれど本音を言えば、今すぐ帰らせたい。

宝生知優は視線を上げ、苦しそうに口角を持ち上げてみせる。

『大丈夫。今夜の交渉には響かない』

この案件だけは、落とせない。

林原裕樹に重要な顧客を立て続けに横取りされて以来、会社はずっと崖っぷちに立たされていた。

田村青美は何か言いかけて、結局、黙ってぬるめの水を差し出した。

この会社が宝生知優にと...

ログインして続きを読む