第8章

翌朝早く。身支度を整えた宝生知優は、鈴崎家のマイバッハに乗り込んだ。

車体は市中心を滑るように走っていく。

知優は鈴崎潤の隣席に腰を下ろす。車内の二人は息が合ったみたいに、ひと言も交わさなかった。

座席ひとつぶんの距離しかないのに、間には深い谷が口を開けている気がする。

潤はきっちりとプレスのかかった墨色のスーツ姿で、白いシャツの襟元がわずかに開いていた。彫りの深い顔立ち。黙って座っているだけで、視線を奪われる。

車はそのまま鈴崎家の老宅へ。

門前ではすでに執事が待機していた。

停車するなり、先に開けられたのは知優側のドアだった。

知優は先に降りたが、すぐには歩き出さない。潤...

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