第80章

彼女には、勝ちを引き寄せられるほどの切り札なんてない。せいぜい口で憂さを晴らせれば、それで十分だ。

けれど、頭に血が上った双葉知世は相変わらず止まらない。

『潤の病気が治ったら、あんたは追い出されるんだからね』

宝生知優はふっと笑った。澄んだ声で、あまりにもあっさりと言う。

『治るなら、離婚してもいいよ。別に気にしない』

双葉知世は目を見開いた。予想外すぎる返答。しかも宝生知優の表情は冗談ではなく、真剣そのものだった。

『……は? 何言ってんの?!』

怒ると思っていた。取り乱すと思っていた。まさか、こんなふうに平然としているなんて。

双葉知世はその場で固まる。

宝生知優は彼...

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