第82章

彼は目を細めた。テーブルの上には宝生知優のバッグがまだ置かれている。外出した彼女が持っていったのは、スマホひとつだけだった。

鈴崎潤は自分のスマホを手に取る。案の定、知優からメッセージが届いていた。

『潤君、朝ごはん買ってくるね。すぐ戻る』

口元に、ほんのわずかな弧が浮かぶ。自分でも気づかないほどの、小さな笑み。

「潤」

やわらかな声が、思考を断ち切った。

双葉知世がひょいと顔を覗かせ、陽だまりみたいな笑顔を向ける。

「ドア、鍵かかってなかったから、そのまま入っちゃった」

――今、潤が笑った?

私が来たから、笑ったの?

胸の奥に、得意げな熱がじわりと広がる。やっぱり潤は、...

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