第85章

一方、宝生知優は急速に病室へ戻った。さっき目にした光景が、熱い焼き印みたいに脳裏へ刻みつけられて離れない。

「バンッ!」

ドアを乱暴に閉め、背中を扉板に預けたまま大きく息を吸っては吐く。全身から力が抜け、手足の先が冷たくなる。

目尻に触れると、ひやりとした湿り気が指に残った。

鈴崎潤が、浮気をした。

少し落ち着くと、知優は勢いよく背筋を伸ばし、ベッドへ向かう。入院着を手早く脱ぎ捨て、私服に着替えた。

視線が、じわじわと硬くなる。

――離婚する。

離婚するなら、鈴崎家に居座る理由なんてない。

タクシーを止め、行き先を告げる。車はそのまま鈴崎潤の邸宅へ向かった。

鈴崎潤は、彼...

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