第86章

宝生知優は書類を素早く繰り、最後のページで視線がぴたりと止まった。数秒――いや、もっと長く。瞳の色がすっと冷える。

……なるほど。ここで待っていたわけだ。

『これからは、この会社はお前のものだ。家に戻って、もっと経験を積んでほしくてな』

宝生隆教の口調はやけに熱心だった。けれど、その目の奥にある算盤の音は隠しきれていない。

宝生知優は黙って聞きながら、口元の弧を少しずつ落としていく。胸の奥で渦巻くものを必死で押さえ込んだ。背筋が、ぞくりと冷える。

『……お礼でも言えばいい?』

宝生隆教は、彼女が心を動かされたのだと勘違いしたらしい。言外の棘に気づかないまま、優しい父親の顔を作る。...

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