第90章

宝生知優は鈴崎潤の手をぎゅっと握りしめ、人垣をかき分けて進んだ。

周囲は野次馬でぎっしりだ。警官が何人も出て、必死に現場を押さえている。

心臓がうるさいほど跳ねる。掌には細かな汗。――いちばん見たくない光景だけは、どうか。

ようやく最前列へ押し出された瞬間、救急車へ担架が運び込まれるところだった。

担架の上の顔を見て、宝生知優は胸のつかえが半分ほど落ちる。知らない顔だ。それでも眉間の皺はほどけない。

このお年寄りが、あまりにも痛ましい。

担架に乗っているのはお婆さんではない。けれど、知優の脳裏には否応なく、お婆さんの今の状況が重なってしまう。――考えたくない。考えたら、壊れてしま...

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