第92章

彼女が名前を思い出すより早く、相手のほうが先に、ぱっと顔を輝かせて呼んだ。

『知優?』

その一声で、記憶の引き出しが一気に開く。

『田村さん』

宝生知優は唇の端を明るく持ち上げ、慌てて中へ招き入れた。

『もう、どれだけ帰ってこなかったのよ』田村さんは目を細め、慈しむように彼女を眺める。『この子ったら。何年ぶり? どんどん綺麗になって……さっき、危うくわからなかったわ』

『十年以上、会ってなかったですもんね』

宝生知優は小さく息を吐いて、しみじみと言った。

子どもの頃、田村さんはよく美味しいものを差し入れてくれた。祖母のことも、彼女のことも気にかけてくれて――この辺りでは、近所...

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