第97章

鈴崎の母はあれこれ言い募った。言い方はきつい。けれど、一つひとつが否定しようのない事実だった。

宝生知優は言い返さない。ただ、指に挟んだペンはいつまで経っても動かなかった。

『金が少ないとでも?』

鈴崎の母の声が、すっと冷える。

『違います』

知優は首を振り、静かに言った。

『十分すぎるほど頂いています』

鈴崎の母は眉を上げ、契約書を知優のほうへ押しやる。署名欄のページを開いたまま、意味深に見つめてきた。

ここでサインしないのは、あまりにも空気が読めない――そう言外に告げる視線。

知優はペンを持ち上げた。ペン先が紙に触れようとした、その瞬間。

ぴたり、と止まる。

そして...

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