第3章

絵里視点

嵐は、まるでこの街に個人的な恨みでもあるかのように猛威を振るっていた。雨が激しくアパートの窓を叩く。

ゴミ箱から拾い出した妊娠検査薬をまだ見つめながらソファにうずくまっていると、私の小さな部屋に、必死なノックの音が三度響いた。

嵐を背負うように、戸口にずぶ濡れの和也が立っていた。胸に抱かれた診断書は雨で滲み、彼の赤い目の縁と同じように、悲劇を物語っている。寒さのせいか、それとも感情のせいか、私にはわからなかった。

「絵里」と彼は声を絞り出し、リビングによろめきながら入ってきた。「彼女が……死んでしまう。葵が、本当に死んでしまうんだ」

彼は私のソファの前に膝から崩れ落ち、診断書が私たちの間の床に落ちた。テーブルランプの薄暗い光の中で、彼の顔を涙が伝っていくのが見えた。

「母さんのたった一つの願いが、俺にワイナリーを大きくしてほしいってことだったの、知ってるだろ」彼は一言一言途切れさせながら、嗚咽した。「葵のお父さんからの投資がなければ、俺は破産する。母さんが築き上げてきたもの、全部なくなっちまうんだ」

彼の最悪の時期を何度も支えてきたことを思い出しながら、私は彼が崩れ落ちていくのを見ていた。

十年間、彼の錨となり、支えとなり、彼のすべてであり続けた。

(ああ、何かが決定的に違う)大きめのセーター越しに、まだ平らな腹部を庇うように手を置く。(これは、彼へのさよなら。そして、私たちのはじまり)

突然、彼は私の両足に掴みかかり、膝に額を押し付けた。「お願いだ、絵里」彼は私の膝に額を押し付け、その声は床に吸い込まれるようだった。「これが最後だ。投資を受けたら、必ず葵とは別れる。そして君と…俺は君と結婚する。約束する」

膝にかかる彼の頭の重さが、本来あるべき重さよりもずっと重く感じられた。まるで、他人の重荷をあまりにも長く背負いすぎたみたいに。

「これが最後よ、和也」と、自分の声が嗄れているのに気づいた。「あなたのためにしてあげるのは、これが最後」

彼は勢いよく顔を上げた。その一瞬、彼の目に何かがよぎったのが見えた。安堵? それとも勝利? だが、それはすぐに新たな涙にかき消された。

「ありがとう、絵里! 君のこの恩は一生忘れない!」

(いいえ)床で嘘の涙を流す彼を見つめながら、私は思った。(あなたはどうせ、何も覚えていないわ)

和也が帰った後、私は寝室で一人座っていた。ベッドサイドランプの暖かい光が、暗闇の中に小さな安全な円を作っている。

枕の下から妊娠検査薬を取り出し、指先で二本のピンクの線をなぞった。

「赤ちゃん」私はお腹に囁いた。「ママがこの一つだけ終わらせるのを待っててね。そしたら、ここを出て、私たちだけの人生を生きるのよ」

化粧台の引き出しから、先週こっそり買った小さな白いロンパースを取り出した。柔らかいコットン生地で、前には黄色いアヒルの子がプリントされている。和也には決して理解されないとわかっていたから、禁制品のように隠していたものだ。

それを丁寧にたたみ、一泊用のバッグに入れた。

それから携帯を手に取り、弁護士の友人である百合子にテキストメッセージを送った。『来週、私から連絡がなければ、例の件、よろしく』

赤ちゃんのことに直接触れるのは、あまりに危険だった。このメッセージは、万が一の時のための、私とこの子のための保険だ。

「心配しないで」片手をお腹に当てながら、私は呟いた。「もうすぐ、パパの顔を見なくてもよくなるからね」

(最後の犠牲。そしたら、あなたと私だけよ、赤ちゃん)

翌朝、私は私立病院の無機質なな廊下に立っていた。手術まであと一時間。手の震えが止まらなかった。

ナースステーションでカルテを確認していた田中先生を捕まえた。

「田中先生」私は彼の白衣の袖を掴み、人目につかない廊下の隅へと導いた。「ご相談が。もし…もし、患者が妊娠六週だった場合、骨髄提供は赤ちゃんに影響を及ぼすのでしょうか」

田中先生は書類をめくる手を止め、新たな懸念を滲ませた目で私を見た。彼は鼻の上の眼鏡を押し上げ、私の顔を注意深く見つめた。

「理論上は、骨髄の提供が胎児に及ぼす影響は最小限とされています」と彼はゆっくりと言い、私の術前レポートを再確認した。「ですが、術後は綿密な経過観察が必要になります。術後に産科の専門医がフォローアップするよう手配しますよ」

私の肩からいくらか力が抜けていくのを感じた。「でも、赤ちゃんは大丈夫なんですよね?」

「お二人とも守れるよう、全力を尽くします」と、彼は私の腕を優しく叩いた。「落ち着いてください。ストレスは今、お二人にとって良くありませんから」

「この子を失うわけにはいかないんです」私は彼の白衣を掴んで言った。「お願いします。私に何があっても、この子だけは助けてください」

「ご心配はわかります。投与量を調整し、術後すぐに産科の検診を予定します。今はとにかく、リラックスすることに集中してください」

私は頷き、守るように自分のお腹に手を当てた。

(頑張って、赤ちゃん。ママが必ず乗り越えさせてあげるから)

手術室は、無影灯の下で目が眩むほど白かった。冷たい金属の台に横たわると、消毒液の匂いで空っぽの胃がせり上がってくるようだった。

看護師が私の腕に点滴の針を刺すと、私は目を閉じ、二つの記憶が心に蘇るのに身を任せた。

意識が薄れる中、二つの光景が浮かび上がる。一つは、十年前の葡萄畑。泥にまみれた私の鼻先に、不意に落とされた彼のキス。そしてもう一つは、今朝、自らの腹部に感じた、命の微かな震え。

そして、今朝。自分のお腹に触れ、内なる小さな命のきらめきを感じたこと。

(赤ちゃん、ママを待っててね)麻酔が効き始めるのを感じながら、私は思った。私の指が、薄い病院のシーツを握りしめる。(私が眠っている間、どこにも行かないで)

遠くの方で、手術用のドリルが起動する音がした。完全に目を閉じてしまったら、もう二度とこの子に会えなくなるかもしれないという恐怖に襲われ、私は必死に意識を保とうとした。

「もうすぐ終わりますよ」と田中先生が優しく言った。

安堵が全身に広がった。悪夢が、もうすぐ終わる。

「心配いりませんよ」と看護師が私の耳元で囁いた。「赤ちゃんと、あなたは無事です」

私はかろうじて弱々しく微笑んだ。「ありがとうございます」

(和也、これで終わり。本当に、最後。これからは、私とこの子で、あなたの邪魔は二度としないから)

暗闇の中で目が覚めると、喉が紙やすりのように乾いていた。病室が違う場所に感じられた――より冷たく、がらんとして。私の手は、すぐに自分のお腹へと伸びた。ここ数週間感じていた、あの慣れ親しんだ微かな動きを探して。

空虚。

そこには、温もりも、数週間感じ続けたはずの生命の気配もなかった。私の密かな慰めであり、唯一の希望だったあの小さな脈動は、どこへ消えてしまったのか。

(まだ麻酔でぼーっとしているだけかもしれない)私はゆっくりと起き上がりながら自分に言い聞かせた。(もう少し、待つ必要があるのかも)

けれど、パニックが氷水のように胸を這い上がってくるのがわかった。震える指でナースコールを探し、何度も押した。

「赤ちゃん、赤ちゃん、どこにいるの?」両手で必死にお腹をさすりながら、私は囁いた。「お願い、少しだけ動いて。ママに大丈夫だって知らせて」

自分の体から返ってくる沈黙は、耳が聞こえなくなるほどだった。

看護師が駆け込んできた。静かな部屋に彼女のスクラブが擦れる音が響く。「水原さん、どうされましたか?」

「赤ちゃんが…感じられないんです」言葉は嗚咽に変わる。「手術の前は、動いていたのに。お願い、産科の先生を呼んでください! この子に何かあったら…!」

彼女は私の肩に手を伸ばそうとしたが、私は代わりに彼女の手首を掴んでいた。爪が意図せず彼女の肌に食い込んでいる。

「お願いです」涙で視界がぼやけ始めた。「手術の前は、小さな動きを感じられたんです。でも今は何もない。これって普通なんですか? 普通だって言ってください!」

「すぐに田中先生をお呼びします」彼女は私の指を優しく引き剥がしながら言った。「落ち着いて。術後は、体が回復するのに時間が必要なこともありますから」

けれど私はもう、震える手で一泊用のバッグに手を伸ばし、黄色いアヒルの子の小さなロンパースを取り出していた。それを命綱のように胸に抱きしめる。

「昨日は元気だったのに」私は嗚咽した。「先生は、大丈夫だって言ったのに」

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