第172章

 その瞬間、まるで時間が止まったかのようだった。ふたりは、いつまでも離れようとしない。きっと今、これまでのあれこれがスライドショーみたいに頭の中を次々よぎっているのだろう。互いに、過去の記憶の中に沈み込んでいく──そんなふうにさえ見えた。今夜は、ふたりにとって忘れられない、特別な夜になる。もちろん、私にとっても。

 これは、あまりにも特殊な結婚式だ。特殊なのは、新郎新婦の関係だけじゃない。そこには、友人も親戚もいない。介添人も、祝福の拍手もない。あるのは、自分たちだけで進めていく、たったひとつの儀式。そして、音楽もなければ、主賓の挨拶も牧師の言葉もない──音のない、静かな結婚式。

「ん…...

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