第214章 IFストーリー

 そのときの私は、余計なことを考える余裕もなく、反射的にスマホを取っていた。通話ボタンを押した瞬間、脳裏をよぎったのは――誘拐、身代金、という言葉。

 映画なんかでよくある、子どもがさらわれたあと、すぐにかかってくる脅迫電話。だが、私のこのスマホは契約したばかりの新品だ。この町にだって、ほとんど知り合いなんていない。私の番号を知っているはずのない相手から、こんなタイミングで電話がかかってくるなど、本来あり得ないはずだった。

「木村健さんで、いらっしゃいますね」

 受話口から響いてきたのは、よく通る、低くて重みのある男の声だった。

「そうですが……どなたですか」

 まだ息子を見失った...

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