第232章 IFストーリー

「運転手さん、止めてください。ちょっと家に寄ってきます。このあとは自分で会社に戻ります……」

自分の団地の棟が目に入った瞬間、反射的に口をついて出た言葉だった。言い終わったあとで、自分でもハッとしてしまう。まるで別の魂が、勝手にわたしの身体を借りて喋ったみたいだった。

「かしこまりました、木村さん……」

会社の人間は皆、わたしが氷川香織の後継者であり、現在は副社長の肩書きを持っていることを知っている。運転手もそれ以上余計なことは言わず、一言返しただけで車を路肩に寄せて停めた。

車を降りて、わたしはとぼとぼと自分の団地へ向かって歩きだす。さっき自分の棟の前を通り過ぎたタイミングで、あの...

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