第142章

知意は気に留めることなく、グラスを手に取って一口飲んだ。冷たい液体が喉を滑り落ち、初夏の鬱陶しい暑さを少しだけ和らげてくれる。

ふと、ふくらはぎにむず痒さを感じて視線を落とすと、数匹のアリが足首を這い上がってきているところだった。

本能的に脚を引っ込め、手で払おうとしたが、殊が彼女より一足早くしゃがみ込んだ。

「動かないで」

その声はとても穏やかで、ふくらはぎのアリをそっと払う指先の動きは、どこまでも慎重だった。

知意は一瞬呆気に取られ、彼を見下ろした。

彼は目の前にしゃがみ込み、長い睫毛を伏せている。肌をかすめる指先からは、不思議と安心できる温もりが伝わってきた。

「まだいる...

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