第172章

彼女は振り返り、梨々香の手を引いて、抑えきれない驚きを声に滲ませて囁いた。

「梨々香、あの子は誰なの? 殊が女の子にあんな態度をとるなんて、今まで見たことがないわ」

「あの子、ここ数年ずっと恋人も作らなくてね。数年前なんて橘家のお嬢さんが熱烈にアプローチしてきて、両家の親同士で顔合わせまでしたのに、頑として首を縦に振らなかったのよ。世間じゃあの子、もしかして……その……分かるでしょ? 私とおじさん、心配で心配でたまらなかったの」

ここ数年、殊には恋人の影すらなく、世間では彼が女性に興味がないのではないかという噂まで飛び交っていた。夫婦は来る日も来る日もそのことで頭を悩ませていたのだ。

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