第175章

きびすを返して立ち去ろうとしたが、ふと思いとどまった。このまま何も言わずに消えれば、目を覚ましたあの子はきっと悲しむ。これ以上、あの子に辛い思いをさせるのは忍びなかった。

知意はぐっと唇を噛みしめ、フロントへと向かった。

「空いている部屋はありますか」

その声はひどく落ち着いていた。

フロント係は端末を操作し、申し訳なさそうに首を振った。

「お客様、申し訳ございません。本日はあいにく満室となっております」

知意は数秒沈黙したあと、「ありがとう」とだけ言い残し、エントランスの扉へと歩き出した。

扉を押し開けると、夜風がどっと流れ込んでくる。

階段の上に立ち、大きく深呼吸をしてか...

ログインして続きを読む