第37章

前を歩く男は背筋が伸び、手に紙袋を提げている。少し身を翻して後ろの女を振り返るその仕草には、明らかな気遣いが滲んでいた。

後ろの女はうつむき加減で慎重に歩を進め、時折顔を上げては何かを返している。その顔には、蓮が久しく見ていないほどリラックスした、自然な表情が浮かんでいた。

知意と……殊か?

蓮の視線は、その二つの影に三秒ほど留まった。

表情に変化はない。瞳の奥は深く沈み、喜怒の判別はつかない。

やがて視線を外し、前席の運転手に淡々と命じた。

「出せ」

黒のセダンが車列に滑り込み、雨の中の光景を瞬く間に後方へと置き去りにした。

神谷邸。

知意が屋敷に戻った頃には、雨はすでに...

ログインして続きを読む