第16章

この世界で、彼女が本当に大切に思っている肉親は、もう祖父しか残っていない。

彼女は病室のベッドから一歩も離れず、祖父の掛け布団を直してやり、温かいタオルでその頬や手をそっと拭いた。

夜の帳が下りても食欲は湧かず、時間すら忘れていた。再びスマホの着信音が鳴るまでは。

盛岡静江からだった。

『瑶、どうしてまだ帰ってこないの? 晃が、あなたは午後から慌てて出かけたって言ってたけど、夕食も一緒に食べないの?』

電話の向こうの静江の声には、少しだけ咎めるような響きがあった。

浅沢瑶はそこでようやく我に返り、少し掠れた声で答えた。

「お義母さん、ごめんなさい。祖父が入院してしまって、今は病...

ログインして続きを読む