第7章

西園寺凛。北峰市でもトップクラスの名門、西園寺家の一人娘であり、浅沢瑶にとって幼い頃からただ一人の親友だった。

「私が戻ってこなかったら、このままいいようにやられ続けるつもりだったの?」

西園寺凛は呆れたように白い目を向けると、有無を言わせず彼女を自分の車に押し込んだ。

三十分後。二人は人目のつかない個室のあるレストランにいた。

西園寺凛は彼女のために胃に優しい薄味の料理をいくつか頼んだが、浅沢瑶の血の気のない蒼白な顔を見ていると、どうしても言葉に怒気が混じってしまう。

「今回はチャリティ公演のために戻ってきたのよ。サプライズで驚かせるつもりだったのに、蓋を開けてみればこっちが驚かされたわ」

彼女はスプーンで器の縁を軽く叩き、カンと澄んだ音を立てた。

「自分の顔、鏡で見た? 紙みたいに真っ白じゃない。言いなさい、盛岡晃っていうあのろくでなしに、また何かされたんでしょ」

浅沢瑶は目を伏せ、小さく料理を口に運んだ。胃の中は少し温まったが、心は冷えきったままだ。

彼女は首を横に振り、かすかな声で言った。

「違うわ。最近ちょっと、仕事が忙しかっただけ」

「忙しかった?」

西園寺凛は鼻で笑った。

「浅沢瑶、他の人は騙せても、私は騙せないわよ。昔は怖いもの知らずで、盛岡晃の書斎に蛙を箱いっぱい放り込んで脅かしたような子が、どこへ消えたのよ。どうして今じゃ、言われるまま黙って耐えるだけの子になっちゃったの」

そんな生き生きとした昔話も、今となってはまるで遠い別世界のことみたいだった。

浅沢瑶は目頭が熱くなり、ただ俯いて粥を飲むしかなかった。そうしていないと、今にも崩れてしまいそうだった。

その様子を見た西園寺凛は、ますます腹立たしさを募らせる。彼女は勢いよくテーブルを叩いた。

「もういい、食べなくていい! 今から盛岡晃のところへ行って、きっちり問いただしてくる。あいつがまだあんたを雑巾みたいに使い捨てるつもりなら、ただじゃおかないわ!」

「行かないで!」

浅沢瑶は慌てて彼女の手を掴む。今まで見せたことのないほど、切羽詰まった顔だった。

「西園寺凛、お願い。行かないで」

西園寺凛には、盛岡晃を困らせるだけの力がある。でも盛岡晃は北峰市に深く根を張った存在だ。自分はもう、先のない命。どうせ長くない。それなのに、たった一人の親友まで巻き込みたくはなかった。

「これは私自身の問題よ。自分で片をつける」

浅沢瑶は深く息を吸い、西園寺凛の心配そうな眼差しを正面から受け止める。そして、はっきりと言った。

「私、彼と離婚するつもり」

西園寺凛は一瞬、ぽかんとした。次の瞬間、その目にぱっと大きな喜びと賛成の色が広がる。

「本当に? やっと目が覚めたの? 最高じゃない! だから前から言ってたでしょう、あんな男に価値なんてないって。離婚よ、絶対に離婚!」

長年胸を塞いでいた巨石が、ようやくどけられたみたいに、西園寺凛の機嫌は一気によくなった。だがその数分後、彼女のスマホに飛び込んできた芸能ニュースの速報が、その顔色を一瞬で曇らせる。

彼女は無言でスマホを浅沢瑶の前へ差し出した。

画面に映っていたのは、一枚の高精細な写真。背景は、市内で名の知れたカフェ。

盛岡晃が少し首を傾け、指先でそっと宇佐美萌の口元についたクリームをぬぐっている。その深い瞳には、浅沢瑶が一度も向けられたことのない、絡みつくような甘さが宿っていた。

タイトルはさらに容赦がない。

――【盛岡社長と人気女優、ついにゴールイン間近? 街角カフェで甘すぎる餌付けショット!】

浅沢瑶の瞳孔がぎゅっと縮まる。心臓が氷水に沈められたように冷たく、そして痛かった。

それでも、長年の職業意識は恐ろしいほど染みついている。極限の苦しみの中ですら、彼女の頭は反射的に対応策を組み立て始めた。

写真の角度。投稿時間。裏で糸を引く者の有無。無数の情報が脳内で高速に回転していく。

彼女は条件反射のようにスマホを取り出し、秘書とのチャット画面を開いた。

「浅沢瑶!」

西園寺凛がその手をぱしりと押さえつける。怒りで声まで震えていた。

「何してるの。頭おかしいんじゃないの? 離婚するんでしょ? まだこんな後始末をしに行く気? どこまで見下げ果てれば気が済むのよ!」

浅沢瑶は顔を上げる。そこにあったのは、西園寺凛の知らないほど深い疲労と、死んだような静けさだった。

彼女はそっと西園寺凛の手を外し、低く言う。

「仕事だから。始めたことは最後までやるの。西園寺凛、これが本当に最後よ」

西園寺凛は呆れ果ててふっと笑った。いったいどれほどのマゾヒストなのか。本人はこれで気骨を示しているつもりかもしれないが、実際はただの哀れな、いいように扱われるだけの虫ケラにすぎない。だがふと思い直す。マゾヒストならいじめられて喜ぶのも当然か、と妙に腑に落ちてしまった。

浅沢瑶は外套を掴み、親友の怒鳴り声も背にしたまま、レストランを飛び出していった。

カフェの外は、すでに記者たちで黒山の人だかりになっていた。

浅沢瑶が到着したとき、会社のPRチームは完全に混乱しきっていた。

彼女は無表情のまま人の波をかき分け、中へ入ると、すぐさま現場の主導権を取り戻した。冷静に、迷いなく、次々と指示を飛ばしていく。

「A班、人を散らして通路を確保して」

「B班、メディア対応。盛岡社長と宇佐美さんは新しい公益プロジェクトの打ち合わせ中だったと伝えて。写真は角度の問題で押し通す」

「C班、付き合いのある媒体へすぐ連絡。原稿の配信準備を」

感情を持たない指揮官のように、彼女は細部まで正確に捌いていく。先ほどまで混沌としていた現場が、彼女の采配ひとつで、徐々に秩序を取り戻していく。

あまりに仕事へ集中していたせいで、彼女は気づかなかった。盛岡晃がいつの間にか宇佐美萌を連れてカフェから出てきており、少し離れた場所から、その背中を見ていたことに。

盛岡晃は、その見慣れたようでいて見慣れない背中をじっと見つめる。顔色はひどく悪く、体も風が吹けば折れそうなくらい細い。なのに仕事を仕切る姿には、相変わらず誰にも逆らわせない鋭さがあった。

気を引くための駆け引きか。よくもまあ、飽きずに演じ続けるものだ。

冷たい嘲りが、彼の口元に浮かぶ。長い脚で人波を割り、まっすぐ彼女の背後へ歩み寄る。

周囲の喧騒が一瞬、遠のいたようだった。重たい影が落ちる。

浅沢瑶が次の指示を出そうと振り返りかけた、その耳元へ――低く、嘲りに満ちた男の声が、凍った毒みたいに擦りつけられる。

「芝居はもう気が済んだか?」

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