第79章

彼の声が不意に響いた。低く、しゃがれていて、彼自身も同じ記憶の底に沈んでいるかのようだった。

浅沢瑶のまつ毛がかすかに震えたが、何も言わなかった。

「あの頃は、なんて手のかかる奴だと思ってたよ」

盛岡晃は独り言のように呟く。声はひどく低かった。

「ただの風邪でうわ言を言うまで熱を出して、俺の手を握ってないと眠ろうとしなかった」

彼は言葉を区切り、横を向いて彼女を見た。月明かりに照らされたその深い漆黒の瞳には、ひどく脆い、懐かしむような色が宿っていた。

「瑶。宇佐美薫は俺を助けるために死んだ。俺はあいつに命の借りがある。宇佐美萌はあいつのたった一人の妹で、死ぬ間際に面倒を見てやって...

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