第82章

浅沢瑶は書類をめくる手を止め、顔を上げて彼を見た。

「だが、今後こういうことがあっても、我慢する必要はない」

長谷川薫は彼女を見つめた。その眼差しは澄んでいて、温かい。

「君はリーディングテックの副社長だ。誰の所有物でもない。牙を剥くべき時は剥けばいい。自分を押し殺すな」

浅沢瑶は一瞬だけ呆然とし、やがて静かにうなずいた。

長谷川薫はそれ以上は何も言わず、立ち上がって彼女の机の上の書類を軽く叩いた。

「午後のテストは、君に任せるよ」

ドアが閉まった後、浅沢瑶は彼の去った方向を見つめ、ほんのわずかに唇の端を上げた。

牙、か。

昔の彼女にそれがなかったわけではない。ただ、盛岡家...

ログインして続きを読む