第99章

彼は顔を上げることも、答えることもなく、ただ黙ってグラスの中の焦げ茶色の液体を見つめていた。

ダイニングの空気はまるでこの瞬間に凍りついたかのようで、息が詰まるほど重苦しかった。

「祖父さんが本邸で待っている」

長い沈黙のあと、彼は冷ややかな声でそう口を開き、離婚に関する話題を一切避けた。

対話を拒絶するようなその態度に、浅沢瑶の胸にどうしようもない無力感がよぎる。

彼はいつもそうだ。自分の向き合いたくない領域に触れられると、すぐに沈黙という高い壁を築き上げる。

……

盛岡本邸。

石畳の道で車が停まるや否や、盛岡明依が慌ただしく庭から飛び出してきた。

「義姉さん!」

盛岡...

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