第5章
京都の朝は、東京に比べてずっと静かだ。
窓から差し込む陽光が、畳の上にまだらな光の影を落としている。
目を開けると、一瞬、ここが夢なのか現実なのかわからなくなった。
竹屋尊史の町家で過ごすのは、今日で三日目になる。
彼の家は京都の二年坂近くにあり、伝統的な町家を改装した建物だった。木造の構造からはほのかな白檀の香りが漂い、鉄筋コンクリートの高層マンションとは比べ物にならないほど、空間の隅々にまで生命の息吹が感じられる。
竹屋尊史は仕事が忙しく、出版社での残業で帰りが遅いこともしばしばだ。
見知らぬ環境に一人取り残されても、不思議と不安は感じなかった。
おそらく、...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
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