第29章

彼女は涼しい顔をしている。まるで、先ほどの騒ぎなど初めから存在しなかったかのようだ。

「姉さん、大丈夫?」

朝霧一輝が心配そうに尋ねる。

月見華は平然と会計を済ませ、店員からショッピングバッグを受け取ると、弟を振り返った。

「どう見える? 私が何かされたように見えて?」

朝霧一輝は言葉に詰まり、じっと月見華の顔を見つめた。

「何?」

月見華が首をかしげる。

「今の姉さん、すごいよ」

朝霧一輝は真剣な眼差しで言った。

「僕が出会った頃より、ずっと強くなった」

月見華の貼り付けたような笑みが、一瞬だけ強張った。

朝霧一輝と出会ったばかりの頃の記憶が蘇る。

あの頃、彼女は...

ログインして続きを読む