第4章

「お嬢様、どうされたのですか? こんなに酷いお怪我を……」

小山さんの声が詰まる。

彼女は月見華が幼い頃からその成長を見守ってきた。華が少し転んで怪我をしただけでも、我がことのように心を痛める人だった。

月見華は力なく首を振った。目の奥が痛み、視界はいつも以上に霞んでいる。

自分の視力が悪化していることは分かっていた。だが今の世の中に、それを気にかけてくれる人間などいやしない。

「小山さん、どうしてここに?」

華は痛みをこらえて尋ねた。

小山さんは涙を拭った。

「運良く通りかかってよかったわ。本当に、馬鹿なお嬢様なんだから」

実際には誰かに呼ばれたのだが、華に余計な気苦労をかけたくなくて、彼女はそう誤魔化した。

「鴉崎の仕業ですか? か弱い女性相手に、なんてことを……」

小山さんの目から涙が零れ落ちる。

彼女の知る月見華は、心根の優しく柔らかな子だった。孫の学校の世話をしてくれたり、病院へ連れて行ってくれたり……これほど善良な人に、神様はどうして報いてくださらないのか。

「小山さん」

華はそっと彼女の袖を引いた。

「鴉崎家の力は強大すぎます。私たちに勝ち目はありません。こうなった以上、私はただ静かに去りたいのです」

小山さんは拳を握りしめ、憤慨した。

「ですが、あんなに尽くされたのに……」

「全部、私が彼に借りていたものですから」

華は言葉を遮り、一筋の涙を流した。

「返すべき借金だったのよ」

その夜、月見華はまんじりともせず過ごした。

左目がズキズキと痛み、中で何かが砕けているような感覚がある。

新婚初夜、処女の証がないと知った時の鴉崎響の目を思い出した。

冷たく、嫌悪に満ち、まるで汚物を見るような目。

彼は言った。裏切りが一番嫌いだ、お前もお前の不義理な祖父と同じで、虫唾が走ると。

わずかな不貞の可能性が、彼の心の奥底に潜んでいた憎悪を増幅させたのだ。

彼女は弁解したが、彼は信じず、確かめようともせず、彼女を飼い殺しにした。

結局は口実に過ぎない。彼は彼女を憎んでいるからこそ、最も屈辱的な方法で彼女を切り刻んだのだ。

翌朝、携帯の着信音が耳障りに響いた。

月見華は手探りで電話に出た。左目はほとんど見えなくなっていた。

「月見華、もう向かっているんだろうな」

鴉崎響の氷のような声が響く。

「九時ちょうどだ。市役所の前で待たせるな」

小山さんに時間を聞くと、すでに八時半だった。

急いで起き上がると激しい目眩が襲い、左目の痛みで立っていられないほどだった。

「華ちゃん、一緒に行こうか?」

小山さんが心配そうに言う。

華は無理に微笑んだ。

「大丈夫よ、小山さん。一人でできるわ」

小山さんまで巻き添えにして、報復を受けさせるわけにはいかない。

市役所に到着したのは九時二十分だった。

鴉崎響は階段の上に立っていた。黒のスーツが彼の長身を引き立て、その英俊な顔には霜が降りたような冷たさが張り付いている。

「やっと来たか」

彼は冷笑した。

「また以前のように、小細工をするつもりかと思ったぞ」

華はうつむき、長い髪で視界のぼやけた左目を隠した。

「ごめんなさい、遅れました」

鴉崎響は彼女の手首を掴んだ。骨が痛みそうなほど強い力だった。

「月見華、そんな可哀想なふりをして何か変わると思うなよ」

言い終わると同時に、彼の視線が彼女の顔に釘付けになった。切れ長の目を細める。

「その顔……」

「あなたには関係ないわ」

彼女は慌てて遮り、唇を噛みしめて涙をこらえた。

説明しても意味がない。彼は決して信じないのだから。

離婚手続きは驚くほど早く終わった。

係員が婚姻届に「無効」の印を押した時、華は胸に鋭い痛みを感じた。

たとえ復讐のための結婚だと知っていても、彼女はこの書類をどれほど大切に思っていたことか。

係員が事務的に二冊の手帳を渡した。

鴉崎響は冷ややかに自分の分を手に取り、振り返りもせずに出口へと歩き出した。

華は震える指先でそれを受け取った。

その時、また携帯が鳴った。

「月見華! どこで死んでるのよ!」

藍原蛍の金切り声が響く。

「さっさと戻ってあんたのガラクタを持って行きなさい! 届けてやるなんて思うんじゃないわよ!」

「今行くわ」

彼女は深呼吸して答えた。

「急ぎなさいよ! お嬢様ぶって。あんたにまだ利用価値があるからいいようなものの、そうでなきゃとっくに……」

華は無言で電話を切り、外へ向かった。

鴉崎響の車はすでに砂煙を上げて去っており、未練の欠片もなかった。

月見家の別荘は相変わらず立派だが、往年の輝きはない。

華がチャイムを鳴らすと、藍原蛍が不機嫌そうにドアを開けた。

「やっと来たの? 荷物は物置よ、自分で持って行って」

藍原蛍は彼女を上から下まで眺めた。

「離婚したの?」

華は頷いた。

「慰謝料もふんだくれなかったの? 本当に役立たずね!」

藍原蛍は鼻で笑った。

その嫌悪に満ちた眼差しの理由を、華は知っている。

彼女は不倫の産物であり、藍原蛍の結婚生活の失敗の証人だ。かつての藍原蛍が理想の結婚に憧れていればいたほど、今の彼女は華を憎んでいる。

だが、彼女も月見大成の血を引いている以上、言葉による陵辱以外、残酷な報復はできないのだ。

華は心痛に耐え、無言で物置へ向かった。左目の痛みが激化し、視界はほぼ真っ暗だ。

手探りで二つのスーツケースを見つけ、重い荷物を引きずって必死に外へ出た。

「待ちなさい!」

藍原蛍が呼び止めた。

「鴉崎家とは……本当に、もう一縷の望みもないの?」

華は足を止め、心底絶望した。

「お母さん、もう離婚したのよ」

藍原蛍の声が棘を含んだ。

「あんたなんて当てにするんじゃなかった! ここまで育ててやって、男一人捕まえられないなんて! 最初からパトロンの相手でもさせておけば、少しは稼げたのに!」

その言葉はナイフのように華の胸を刺した。

母が「家族への貢献」という美名のもとに、彼女を老いた男たちの酒席に送り込み、笑顔を切り売りさせていたことを思い出す。

「行くわ」

華の声は震え、スーツケースを引いて早足で去った。

階段を降りようとしたその時、左目に激痛が走り、視界が完全にブラックアウトした。

足を踏み外し、硬い石段に膝を強打する。鮮血が滲み出した。

「本当に恥さらしね!」

藍原蛍は入り口で冷ややかに見ていた。

「誰に可哀想なふりをしてるの? さっさと起きて失せなさい!」

華は立ち上がろうともがいたが、目の痛みで何も見えない。

手探りでスーツケースのハンドルを掴み、なんとか体を支えて立ち上がると、足を引きずりながら道端へ向かった。

膝の傷は深かったが、心の痛みに比べれば何でもなかった。

一台のタクシーが彼女のそばに止まり、親切な運転手が荷物をトランクに入れてくれた。

車に乗り込むと、華はようやく声を上げて泣いた。

「お客さん、どちらへ?」

運転手が尋ねた。

華は固まった。

どこへ? もう家はない。昨夜の小山さんの家は仮住まいで、ずっと迷惑をかけるわけにはいかない。

「適当に……走ってください」

彼女は嗚咽交じりに言った。

タクシーが月見家の別荘を離れる。華は窓の外のぼやけた街並みを眺め、右目から涙が止まらなかった。

左目はもう完全に見えず、痛みは少しも引かない。

携帯を取り出し、無意識に鴉崎響の番号を表示させた。

以前は体調が悪いと、どれほど彼女を嫌っていても、彼は医者を寄越してくれた。

それは彼女の卑屈な愛における、唯一の甘い記憶だった。

今は、そんな望みすらない。

華は両目を閉じた。世界が完全な闇に沈む。

恐怖が心臓を鷲掴みにする。もし右目まで失明したら?

誰が世話をしてくれる? 誰が気にかけてくれる?

「お客さん、血が出てますよ。病院へ行かなくていいんですか?」

運転手がバックミラーで彼女の膝を見て、親切に声をかけた。

華は首を振った。

「いいえ、大丈夫です。ありがとう」

彼女は運転手に、昨夜の公園へ向かうよう告げた。

スーツケースを引きずり、ベンチに座り込む。膝の上で固まった血の塊をぼんやりと見つめた。

携帯が振動した。小山さんからだ。

「華ちゃん、どこにいるの? 手続きは終わった?」

小山さんが心配そうに尋ねる。

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