第96章

そう言い終えると、彼は躊躇なく手元の電話の通話ボタンを押した。

コール音は短く、すぐに電話がつながる。

受話器の向こうから、浅水さんの抑揚のない声が聞こえてきた。

「どちら様ですか?」

浅水さんの声を聞いた途端、佐能記由の横柄な態度は鳴りを潜めた。

電話越しであるにもかかわらず、彼は反射的に腰をわずかに折り曲げ、極めて恭しい口調で返答する。

「浅水さん、私ですよ! 記由です!」

その名前を聞き、浅水さんの声色にわずかな変化が生じた。

「なんだ、君か。私に電話とは、何か用かね?」

その態度は比較的親しげなものだった。

佐能家は毎年彼に贈り物を欠かさないため、その品々に免じて...

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