第十五章

ジュリア視点

夕暮れの風が開け放した窓から流れ込み、松の香りと、欠けゆく月を祝う遠吠え――遠くの狼たちのやわらかな声を運んできた。わたしはリビングの床にあぐらをかき、診療記録や患者のログに囲まれていた。紙の砦。ここ三週間、それはわたしの避難所になっていた。

指先で最新の報告書の数値をなぞる。「新規症例なし、三日連続……」小さく呟いて、ページの下に書き込みを入れる。ペン先が紙を引っかく音は、冷ややかなくらい正確で、わたしが身につけた職業的な距離感とぴたり重なった。

傍から見れば、危機の後始末を黙々とこなす献身的な看護師だろう。誰も、肋骨の奥にぽっかり空いた穴――そこにあるはずだった大切な何...

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