チャプター 7
マシュー視点
ネイサンが駐車場へ向かって角を曲がっていく背中を見送った。だが完全に姿を消す前に、あいつはあの娘を最後にもう一度だけ振り返った。
彼女はまだ不安げだった。眉間を寄せ、隣にいる――たぶん友人だろう――別の娘が、低く切迫した声で何かを告げている。肩の力が抜けないその様子に、守りたいという本能が胸の奥でむくりと起き上がる。だが、すぐに押さえ込んだ。
ネイサンは俺の視線に気づいたのだろう。目がこちらへ滑ってきて、ほんの一瞬、剥き出しの憎悪が瞳に閃いた。隠す気もないその不遜さに、アルファとしての本能が燃え上がる。
「前を見ろ」俺は唸るように言い、声に権威を滲ませた。「そのまま歩け」
ネイサンはびくりと肩を震わせ、反射的に頭をすくめて足を速めた。一瞬、皮膚の下であいつの狼が身を縮め、尻尾を脚の間に巻き込んで服従しているのが見えた気がした。情けない。勝手に浮かんだ思いだが、正当だとも感じた。弱い者は脅し散らすくせに、本物の権威を前にした途端に崩れる。こんな臆病者がスター・シャドウの次のアルファだって? 笑い話にもならない。
俺は背を向け、車のそばで待つ仲間たちのところへ戻った。こんな状況から距離を置けるなら、早いほどいい。
スプリング・バレーの縄張りへ戻る道のりは四十分。ほとんどの時間を、あの娘の不安げな表情を頭から追い払うことに費やしていた。群れのコミュニティセンター入口近くに車を寄せる頃には、すでに執務室で待ち受ける仕事を頭の中で整理し始めていた。
エンジンを切るか切らないかのうちに、風に乗って懐かしい匂いが届いた。花の香水に、期待で浮き立つ気配が混じっている。ドアノブに手をかけたまま足を止めると、案の定、建物の角の向こうから近づいてくる声が聞こえた。
「ほら、来た! すぐ戻るって言ったでしょ!」アビゲイルの声が、弾むような興奮に明るい。
「ねえ、あんたもう二十分くらいここで待ってたじゃない」別の女の声が返す。友人のサラらしい。「さすがに分かりやすすぎない?」
「待ってないし!」アビゲイルが抗議したが、その嘘は人間の耳にだって丸見えだろう。「たまたま……掲示板を見てただけ」
「へえ、建物の中にある掲示板を?」
「うるさい。どう? 私」
俺はため息を飲み込み、ドアを開けて車を降りた。ちょうどそのタイミングで、アビゲイルが計算された自然さで角を回り込んでくる。まるで待ち伏せなどしていなかったかのように。
「アルファ! お帰りなさい!」彼女は俺の横にひょいと現れた。戻りを見張っていたとしか思えない熱量で、金髪を弾ませながら駆け寄ってくる。十九歳のアビゲイルは、若い狼が持つべきものを全部詰め込んだような存在だ――元気で、楽観的で、証明したくてたまらない。加えて最近は、群れのルナになりたがっているのが露骨になってきた。だが、その席を埋めるつもりは俺にはまったくない。
「状況は片付いた」俺は淡々と言い、短く切り上げれば会話も途切れるだろうと期待した。
期待は外れた。
「アルファ! スピーチはどうでした?」彼女ははしゃぎ、俺が入口へ向かって歩き出すと、隣に並んでついてくる。「州立大学ってキャンパスがすごく広いんですよね? イベント、人多かったですか?」
「問題なかった」ぶっきらぼうに答え、俺は目的を持った足取りでドアへ向かった。
「すごい!」彼女は歩幅を速めて食らいつく。「私、あの大学のこと考えてたんです。他の群れの狼もたくさんいるんですか? 地域中から集まった狼に会えるなんて、面白そう」
その問いかけ自体は無邪気に聞こえたが、その奥にひそむ好奇心には心当たりがあった。若い狼は、ほかの群れの相手候補と出会うという発想にしばしば心を奪われる。とりわけ自分の群れの選択肢が限られているように感じるときは、なおさらだ。
「少しはな」俺はそう答え、入口に着いた。「広いキャンパスだ」
「いつか遊びに行ってもいい?」彼女はひるむことなく言葉を継いだ。「案内してくれたりする? アルファが地域奉仕のとき、どこで時間を過ごしてるのか見てみたいの」
「また今度だ」俺は扉を引き開けながら言った。「機会があればな」
彼女は俺の後について中へ入り、間近に迫った満月の集まりの話や、今年の夏は群れでバレーボール大会を開くべきかどうかといった話題を途切れなく並べ立てた。俺は要所要所で曖昧な相槌を打ちながら、机の上に積み上がって待っている報告書の山をすでに頭の中で整えていた。
「じゃあ、その大事なお仕事の邪魔はしないわ」ようやく俺の執務室の扉の前まで来たところで、アビゲイルが言った。「でも、何か手伝いが必要なら――書類仕事でも、ファイルの整理でも、コーヒーを淹れるのでも――いつでも呼んで」
「覚えておく」俺は答え、すでに手はドアノブにかかっていた。「ありがとう、アビゲイル」
だがノブを回すより先に、扉の下の隙間から懐かしい匂いがふわりと流れ込んできた――ジェームズの匂い。それに、どうにも悪戯の気配が混じっている。俺は動きを止め、その静止の瞬間、入口付近で待つ友人たちのもとへ戻ったアビゲイルの声が背後から聞こえた。
「どうだった?」誰かが訊ねた――たしかサラだったはずだ。
「また振られた」アビゲイルがため息をつく。「意味わかんない。最近、あの人、すごく遠いんだもん」
「単にあなたに興味ないんじゃないの」別の声がからかうように言った。
「私だけじゃないわよ」アビゲイルは言い返した。「公式の用事じゃない集まりで、最後に彼を見たのいつ? 完全に引きこもりになってる」
「うちのママは、働きすぎだって言ってた」三人目が付け足す。「燃え尽きる前に伴侶を見つけないと、って」
俺の私生活に関する憶測をこれ以上聞く前に、扉を押し開けた。足を踏み入れた途端、扉の陰から人影が飛び出してくる。
「サプライズ!」
俺は眉ひとつ動かさなかった。「ジェームズ。俺が匂いでわかるって知ってるだろ?」
俺のベータはしゃがんだ姿勢から起き上がり、顔いっぱいに落胆を貼りつけた。「つまんねえな。普通は少しくらい飛び上がるだろ」
「普通は、三十フィート先から馴染みの匂いを嗅ぎ分けられるような強化感覚は持ってない」俺は言い、背後で扉を閉めて机へ向かった。「お前、十二歳か?」
多くのベータなら、アルファに話しかけるときには敬意を示す――視線を落とし、姿勢も従順になる。だがジェームズは、めったにそうしない。俺たちは一緒に育った。互いがいずれどんな立場に就くのかも知らないころ、森の中を追いかけっこしていた仲だ。
ある意味では、ほかの連中のように平伏してへつらわないところがありがたくもあった。幼なじみが目をそらさず、腹の内を言ってくるのは、俺に残された数少ない本物のやり取りのひとつに思えたからだ。
「お前のどんどん陰気になってく人生に、少しは笑いを注入してやろうとしてんだよ」ジェームズは言い返し、俺の机の向かいの椅子にだらりと身を投げた。「お前が笑い方を忘れたみたいだからな。そりゃ伴侶がいないのも当然だ」
その言葉は冗談のつもりだった――いつものように、からかって俺の気分を軽くしようとするジェームズ流の手口。だが、それは俺の制御の利かないところを刺した。俺ははっと顔を上げ、鋭い視線で彼を射抜いた。瞳の奥に、狼の気配が立ち上がるのがわかる。
「言っちゃいけないことを言ったな、ジェームズ」
