第108章

林原撫子は、何かに気づいたようにきょとんと顔を上げた。すると村木原矢が店の奥へ向かって声を張り上げる。

『チャリ!』

二度呼ぶと、どたどたと足音が近づき、苛立ち混じりの声が返ってきた。

『もう閉店だって。うるさいな』

現れたのは、細身で長髪の若い男だった。肌は白く、目の下には濃い隈が二つ。寝不足が一目でわかる。

それなのに、仕立てのいいトレンチコートをさらりと着こなし、今にもランウェイに出られそうな、妙に整った雰囲気をまとっていた。

『俺だ。ちょっと手を貸してくれ』

村木原矢は彼の姿を確認すると、軽く手を上げるだけで用件を言う。

「チャリ」と呼ばれた男は一瞬ぽかんとし、相手が...

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