第110章

『いえいえ、うちでも飲みますし。飲んで寝りゃ治りますよ。ラーメン二杯に果実酒で、全部で――』

店主は首を振りながら今日の勘定をまとめ、『現金? それともコード決済?』と訊いた。

その瞬間、さっきまで反応が鈍かった林原撫子がぱっと跳ね起きた。

『わたしが払う! わたしのおごり!』

声がでかすぎて、ラーメン屋の客たちが一斉にこちらを振り向く。

店主は酔っ払いの勢いに乗っかって、からから笑った。

『いいねえ、お嬢さん太っ腹だ』

林原撫子は得意げに財布を探そうとして――そこで固まった。

今夜、彼女は家から逃げ出してきたばかりだ。金どころか、スマホすら持っていない。

ポケットを片っ端...

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