第117章

二人のちょっとしたやり取りは、ほかの誰にも気づかれなかった。

酒も料理もひと通り入って腹が満ちると、場の空気はふっと緩む。会話もさっきまでの堅さがほどけ、自然と笑い声が増えていった。

話題はいつしか、署で遭遇した珍妙な出来事へ。テーブルのあちこちで「それはないだろ!」と笑いが弾ける。

村木原矢は普段なら、こういう席に長居しない。けれど林原撫子が身を乗り出すようにして聞き入り、瞬きすら忘れた目で話し手を追っているのを見ると――本当に、そういう奇妙な話が好きなのだとわかった。

そのとき、ポケットの中でスマホがぶるっと震えた。

村木原矢は取り出して画面を一瞥し、表示された名前を見た瞬間、...

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