第124章

林原撫子はそう言い終えるや、ほとんど逃げ出すように去っていった。扉が閉まる瞬間、リビングから佐藤岩人が村木原矢に『お説教』されているらしい、くぐもった笑い声がまだ聞こえた。

扉が閉じてもなお、村木原矢の耳たぶに残る赤みは引かない。彼はしばらく扉板を見つめたまま、指先に残った感触を確かめるように、そっと手を握り直した。さっき、彼女の手の甲に触れたときの、あの柔らかさ。

そこへ佐藤岩人が顔を寄せ、にやにやと眉を動かす。

『ボス、さっき浴室で……進展、早すぎじゃないっすか?』

「進展するか、バカ」

村木原矢は睨みつけ、指を曲げて容赦なくデコを弾いた。ぱちん、と乾いた音。

『いってぇ!』...

ログインして続きを読む