第129章

林原撫子は一瞬、言葉を失った。まさか自分の退職の話が、こんなに早く彼の耳に入っているとは思わなかったのだ。それでも彼女は正直に答える。

『はい。引き継ぎが終わったら、辞めます』

『どうして? 世間の噂のせいか。会社が守る』

村木原矢はわずかに間を置き、声の角を落とした。

『俺も守る。俺たち、友達だろ』

受話器の向こうで、忙しない足音が混じった気がした。

林原撫子はスマホを握る指に、そっと力を込める。村木原矢の気遣いが本物だというのはわかる。けれど、一度決めたことは簡単には覆らない。

『噂のせいじゃありません』

小さく息を吐くように言う。

『私の都合です。林原グループのほうで...

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