第15章

「いやあ、本当にごめんなさい。手が滑っちゃって」

向かいから、わざとらしく驚いた声が飛んでくる。けれど、そこに申し訳なさは欠片もない。

林原撫子は反射的にインク瓶を取り上げ、まだ片づけきれていない机からティッシュを引き抜いて、こぼれたインクを拭った。

天板はすっかり染みきってしまい、どれだけ拭いても落ちない黒い染みだけが残る。

「普段、この辺って席なかったでしょ? 今日いきなり埋まっててさ。来るとき躓いちゃって、つい手が当たっちゃったの。責めないよね?」

撫子は机をひと通り拭き終えてから、ようやく顔を上げた。

相手は同年代くらいの女で、同じ部署の社員。会社支給の制服に身を包んでい...

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