第29章
林原聡は、林原撫子の頬を伝う涙を見て胸が締めつけられた。慌ててポケットからティッシュを取り出し、そっと拭ってやる。
不器用で、でも必死なその手つきが可笑しくて、撫子は泣き顔のまま噴き出した。ティッシュを受け取り、自分で涙をぬぐいきってから言う。
『聡お兄さん、さっきは……かばってくれて、ありがとう』
あれがなければ、どうやって体面を保ったまま病院を出ればいいのか、きっと途方に暮れていた。
『俺に礼なんて言うなよ』
撫子の顔にようやく笑みが戻り、聡も少しだけ肩の力を抜いた。が、さっきの両親と弟の態度が脳裏をよぎり、眉間に皺が寄る。
どうして家族が、あんなふうに撫子を追い詰めるのか。...
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