第53章

彼女は会社でもともと目をつけられている。ここでまた余計な噂でも立てられたら、たまったものじゃない。

林原撫子は雨宮蓮二を重くひと睨みし、少し考えた末に近づいてドアを開け、そのまま車内へ身を滑り込ませた。

座った途端、ふわりと淡い香水が鼻先をくすぐる。

嗅ぎ覚えのある匂い――林原寧々がいつも使っているものだ。

つまり、寧々はついさっきまでこの車に乗っていた、ということ。

胸の奥に、じわりと嫌悪が湧く。撫子は背もたれに深く身を預け、隣の男を一瞥すらせず、淡々と言った。

『で、何が言いたいの?』

『ここまで来て、俺が何しに来たか本気でわからないのか?』

無表情の撫子の顔が、雨宮には...

ログインして続きを読む