第61章

林原撫子は、抑えきれない怒気が肌を刺すのを感じた。ふっと視線を上げると、林原父さんの掌が高く振り上げられている。

胸の奥が、すうっと冷えていく。撫子は冷ややかに見返し、脇に落とした拳をきつく握りしめた。

その平手が本当に落ちてくるなら――彼女は迷わず、その「父親」とやらの手首を掴んで止めてやる。

「やめて!」

怒りを孕んだ怒号が、少し離れた場所から飛んできた。

林原父さんは反射的に手を止め、玄関のほうへ顔を向ける。

いくつもの視線が一斉にそちらへ流れた。入口に立つ林原聡は、怒りで肩を震わせている。

「聡……どうして帰ってきたの……」

先に我に返ったのは林原母さんだった。聡の姿...

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