第69章

林原寧々は林原母の斜め後ろに立ち、暗い色の扉をじっと見つめていた。胸の奥では、同じように荒波が渦巻いている。

――だって、父はこれまで「愛妻家」で通ってきた人だ。

もしここで不貞が発覚したら……どんな出来事よりも、みっともない醜聞になる。

ドンドン、と扉が揺れるほど叩かれる。林原母の顔色は最悪だった。彼女にとっては永遠みたいに長い十数秒を待って、ようやく中から話し声と足音が聞こえてくる。

若い女の声。パタパタとスリッパを引きずりながら、苛立った調子で鍵を開けに来る。

『はいはい、今開けるってば。誰よ、ノックが催促みたいでうるさい……』

ガチャ、と扉が開いた。女は文句を言いながら眉...

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