第78章

林原景也は「会社に行く」と口では言った。だが車に乗り込んだ途端、両親の言葉が頭の中でぐるぐると反芻される。

迷いに迷った末、指先がスマホの画面の上で止まった。――それでも、結局は林原撫子とのトーク画面を開いてしまう。

入力欄を睨み、言い回しを選びながら文字を打ち込んだ。

「林原撫子。最近お前が起こした揉め事は、家としてはもう追及しない。戻ってきて父さん母さんに謝れ。そうしたら、俺たちも許す」

何度も何度も、声に出さずに読み返す。これは十分、撫子に逃げ道を用意した言葉だ。彼女が頭を下げる気さえあるなら、自分が両親に口添えしてやる。

そうすれば――林原撫子は、松谷石矢に嫁がずに済む。

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