第84章

負傷する可能性など、林原撫子の頭には最初からなかった。背後の警備員はどんどん距離を詰め、もう片方の手では警棒まで振り上げている。

風を裂いて、棒が唸った。

その瞬間、林原撫子は一切ためらわず、身を翻して窓へ体当たりした。

古びたガラスが「ガシャーン!」と砕け散る。鋭い破片が腕を切り裂き、熱い痛みが走った。

撫子はとっさに豆子の頭を抱え込む。落下の無重力感に背筋が凍り、ぎゅっと目を閉じた。地面に叩きつけられる衝撃を覚悟した――が、着地の寸前、温かい胸にぶつかった。

「ぐっ……!」

下で受け止めた相手が、肉のクッションみたいに地面へ倒れ込み、痛みにうめく。

撫子が目を開けると、その...

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